人身売買は、世界中どこでも禁止されています。でも、法人の売買は「M&A」として、国も後押しする当たり前のことです。
人は売ってはいけない。でも、法人という「人」は売買される
法人は、法律上「人」として扱われます。契約を結び、財産を持ち、責任を負う。だからこそ「法人」と呼ばれるわけです。
その法人が、売買される。ある日突然、グループ会社の一員になる。親会社から社長も役員もやってきます。それを決めたのは、経営陣や株主です。
でも、そこで働いているのは、人です。ここに、どうしても割り切れないものが残ります。
M&Aそのものを否定したいのではありません
誤解のないように申し添えますが、M&Aを否定したいわけではありません。後継者のいない企業が事業を続けられるようになる。技術や雇用が守られる。M&Aが救ってきたものは確かにあります。
私自身、経営者として、事業承継の難しさを目の当たりにしてきました。選択肢としてのM&Aは、むしろこれから重要性を増していくでしょう。
問題は、その過程で「そこで働く人」がどれだけ視野に入っているか、という点です。取引の当事者は株主と経営陣であり、従業員は基本的に蚊帳の外に置かれます。決まったことを、決まった後に知らされる。
この矛盾を、少しでもほぐす
この矛盾を少しでもほぐすことこそ、人間中心の資本主義への一歩だと思います。
たとえば、働く人への情報提供のあり方。処遇や労働条件がどう扱われるのかを、早い段階で丁寧に説明すること。統合後に働き方が大きく変わる場合の、移行期間の設け方。制度として整えられる余地は、まだ十分にあるはずです。
会社は誰のものか、という古い問いがあります。株主のものであることは法律上明らかですが、そこで人生の時間を使っている人たちのものでもある。その両方を見据えた仕組みを、これから考えていきたいと思います。
